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April 1242016

 花の昼刺されしままの畳針

                           山本三樹夫

の花どきが日本列島をゆっくりと北上する。畳屋の店先に出された青畳に、太い畳針が刺されたままになっている景色。鋭い先端を深々と収めるおそろしげな光りは、のどかな桜の午後に似つかわしくないもののようにも思われる。しかし、満開の桜が持つ張り詰めた緊張感と、無造作に刺されたままになっている畳針には奇妙な一致も感じられる。おそらく、一方は美しすぎることから、もう一方は危ないものとして、どちらも「そこにあってはいけないもの」であるとみなす人間が抱く危機感のような気がする。そう思うと咲き満ちる桜を見上げるときに感じる、美しいものを見る感動の片隅にわき起こる心騒ぐ思いにふと合点がいくのである。〈石置けば小鳥の墓よ曼珠沙華〉〈ふるさとへ帰りたき日を鳥渡る〉『手を繋ぐ』(2015)所収。(土肥あき子)




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